吉祥天 (イSム「掌」 復元極彩色仕様 100体数量限定)

先日、発売日に先立って株式会社MORITA様・埼玉ロジスティックセンターにうかがって、「掌」の吉祥天2種類・各1体ずつを連れて帰ってきましたよっと。

山城国(京都府木津川市)とはなっていますが、ほぼ大和国(奈良県)じゃないのか、という程、京都市内よりも奈良市内からの方が近い浄瑠璃寺モデルの吉祥天像です。

今回の大和遠征は中止となってしまいましたが、訪れる予定の浄瑠璃寺でした。
画像は、昨年末の〝駆足初詣〟の際に撮ったものです(夏の雰囲気が出ていないのはその為です)。

末法の世、真っ直中だった平安時代後期の貴族たちの間で流行した「九体阿弥陀」像を阿弥陀堂に納めるという功徳の積み方ですが、当時たくさん建築されたにもかかわらず、創建当初のままの姿で現存するのは、この浄瑠璃寺・阿弥陀堂のみとなっています。

TanaCOCOROシリーズの吉祥天2種は、「浄瑠璃寺×イスム プロジェクト」第一弾ということで2021(令和3)年7月(実際は8月)に数量限定で発売されました。
浄瑠璃寺様では「勧進」を募っていますが、イSム様の「吉祥天」、「薬師如来坐像」(2021年12月/100体)、「阿弥陀如来坐像」(中尊 2022年3月/100体)の製品化(発売時期は予定)は、その販売収益の一部を浄瑠璃寺へ勧進し〝文化継承事業に貢献〟していかれるそうです。何と素晴らしきことでしょう。

浄瑠璃寺のある一帯は「当尾の里」(とうのおのさと)と呼ばれており、昔ながらの自然と、鎌倉時代に遡ると考えられている石仏・石塔などが散在しています。
あそこは伽藍が建てられてからの雰囲気がそのまま遺っている所ですから、このまま後世に伝えていくべき場所です。

さて、今回は「極彩色仕様」100体限定のお話からしましょうね。

TanaCOCOROシリーズ(小さい)からといって侮る事なかれ。
本物は本堂内の厨子に安置されている秘仏で重要文化財に指定されています。
造形バランスもさることながら、衣裳・装飾までもが本物に忠実な再現となっています。

因みに本物は顔を正面として見ると、下半身から台座にかけて左側を向いています。つまり、顔が少々右側を向いているということになるのです。この特徴は再現されていませんね。

360度、まわってもらいましたよ。

寺の沿革を示す唯一の記録『浄瑠璃寺流記事』の記載によると、モデルとなった吉祥天立像は1212(建暦2)年、本堂に安置されたといいます。

作者については不詳ですが、造形からして奈良仏師の系統を引いていると推定されています。
2022年大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の主人公・北条義時が、ライバル和田義盛を挑発・奸計によって打倒した和田合戦が発生する前年のことですね。

頭部の宝冠には、中央に孔雀を・・・と思ったら「鳳凰」を象った飾りが付いています。

本物の該当部分に注目してみました。
宝冠に鳳凰を戴いている仏像彫刻はとても珍しく、他に作例が存在しないとのことです。

額の上のど真ん中には「転法輪」(てんぽうりん)が据えられ、左右にはそれぞれ数種類の花弁、桃の様に見える宝珠が配されています。

 

三日月眉に切れ長で涼やかな視線を発する眼です。下から見上げた画像なので瞳がハッキリと見えますが、水平の位置から見ると〝切れ長〟感が強うなります。
艶やかな黒髪が、頭頂部で髷が結われており、更に左右に肩まで垂らされています。
肌は白肉色で塗られています。白い肌、黒い髪のコントラストが綺麗です。

本物は、頭部と体幹部が檜材(ひのきざい)から彫り出されています。
割矧(わりはぎ)という木目に沿って木材を割って、乾燥による干割(ひわれ)を防ぐ目的で内側を刳り抜く内刳(うちぐり)がなされ、改めて木材を接合する技法が用いられています。

『大吉祥天女念誦法』(だいきちじょうてんにょねんじゅほう)には、「その形像は・・・(中略)・・・身白色にして十五歳の女の如く、種々の天衣を以て微妙荘厳す。」と表記されており、〝色白の15歳の乙女〟の姿であると説かれています。
面貌からは「十五歳の女」とは思えぬ風格が溢れ出ています。「十五歳の」古代女性と現代女性の認識は異なりますからね。

 

首に掛けられ上半身全体に拡がる「瓔珞」(ようらく)は、金・赤・緑の絶妙な3色で彩られています。着衣にも見えますが、赤と緑の相性は、とても宜しいのです。

本物は、この瓔珞は頭・体幹部の檜材とは別の木材で製作されているそうです。
古(いにしえ)の職人の肌理細かい技術には絶句せざるを得ません(最高の褒め言葉です)。

左右の「鰭袖」(ひれそで)が渦を巻くように膨らみをみせ、上衣とその下に重ね着している筒袖の着衣との色の違いを際立たせています。

 

左腕は、肘を曲げて掌(てのひら)を肩の位置まで掲げ、中指・薬指を立てながら如意宝珠(にょいほうじゅ)を乗せています。

宝珠部分を拡大しました。
日本では宝珠が下部を球体に、上部を山なり湾曲させて頂部を先端化させた形にされることが多く見られます。判り易く表現すると「スライム」ですな。
肌の色と同色になっているので、桃にも見えてしまいますね。
〝如意〟と称される如く、意のままに願いが叶うという力を秘めているそうです。

 

3枚の衣を重ね着していますが、袖が軽やかに左右へ広がりを見せて、まさに「天衣」(てんね)の優雅・優美さを表現しています。

『大吉祥天女念誦法』に「その形像は・・・(中略)・・・右は与願の印を作す。」とあり、右手は掌(てのひら)を前に向けて下げています。
これは「与願印」(よがんいん)といい、願いを聞き届ける姿勢を表現しています。
「腰紐緒」(こしひもお)が左右へ緩やかに広がり、その下に「蔽膝」(へいしつ)と呼ばれる前掛けがあり、この蔽膝から左右に枝状の「鰭」(ひれ)が風にたなびくかの様に優雅に拡がりを見せています。

袖口を見ると、上衣の袖は鰭袖となって捲られていますが、その下に袖口が大きく拡がった緑色の衣(長袂衣:ちょうけつえ)、更にその下に袖口がやや狭まった桃色の衣(襯衣:しんえ、という下着)を重ね着しているのが判ります。
右手も単に下げているのではなく、肘から先を少々持ち上げ、掌は斜め右前に開かれています。

下半身は「裳」(も)と呼ばれる、今で言うところの〝巻きスカート〟を着しています。
前出の通り、腰紐緒の拡がりを基準に蔽膝の鰭がそれぞれ左右にたなびきながら拡がっています。
こうした手間を要する装飾を、昔(いにしえ)の職人は木材を使って見事に造り上げています。本物は木で、掌・吉祥天はポリストーンで、柔らかな衣・布の躍動感を表現しています。凄い。

「鰭端」(ひれはし)と呼ばれる裙(すそ)が渦巻状に波打ち、そこから異国情緒溢れる沓のつま先部分(赤・緑の彩色箇所)が顔を出しています。

 

一見、見落としてしまいがちな場所ですが、蓮の葉を重ねた「蓮華座」(れんげざ)が、一枚一枚丁寧に色分けをして塗られています。
価格面(TanaCOCOROシリーズという意味)ということもありますが、こうした細やかさがイSム造形が〝他の追随を許していない〟要因でしょうな。

 

背面にまわってみましょう。

宝冠は帽子状のものではなく、〝ティアラ形状〟の物ですね。
黒髪は頭頂部で髷を結っていますが・・・

上から見ると〝リボン結び〟?〝蝶々を象った結び〟?。何とも表現し難い結い方になっています。

顔の両側へ長く垂れ下げられた髪の毛は、更に引き上げられて結われています。
こうして肩のところは毛先ではなく、丸くまとまった髪の毛の表現になっているのです。

 

後頭部を見てみると、金色の細い「輪光」(りんこう)が装着されています。
肩には、小さなマントの様なスカーフ状の布を掛けています。模様は、本物の彩色残痕状態が極めて傷んでいるので、簡略化されています。こうした箇所は致したかありませんね。

 

背中から腰にかけての部分です。
胸の周りを鮮やかに飾り付けている瓔珞は、首ではなく肩全体で前方の重量を支えつつ、背中の方にも伸びていて、大腿部の横から前方と繋がっている様です。

腰帯の上に見える膨らみや、鰭袖の広がり具合からも吉祥天の膨よかさをうかがい知ることができます。
腰帯の配色・造形は、本物と比較するとかなり省略されています。まぁ、TanaCOCOROシリーズですからね。
ただ、花を表現する模様の塗りが、これまで見てきたイSム像の中では〝雑な塗り〟になっている様です。もし「TanaCOCOROシリーズだから・・・」というのであれば、考え直していただきたいところですな。

 

臀部から大腿部にかけての様子です。
上衣の裙に当たる箇所の花弁模様も、だいぶ省略されています。
白く塗られている部分も、本物だと黄色系の彩色が施されているのですが、本物コピーを求めている訳ではないので〝善し〟とすることができます。

緑色の「長袂衣」(ちょうけつえ)にも、細やかですが〝花弁を伴う植物模様〟が施されています。本物と比較してだいぶ簡略化されていますが、TanaCOCOROシリーズとしてはよく再現されていると感じます。

 

前方ほどではありませんが、鰭端が波打っており、像の持つ躍動感を保っています。

 

 

吉祥天は天下泰平・五穀豊穣を祈願する「吉祥悔過会」(きちじょうけかえ)の本尊として奈良時代から信仰が盛んになっていきます。
『続日本紀』天平神護三(767)年の記事に、称徳天皇(孝謙天皇の重祚)が吉祥悔過会を行うため、現在薬師寺が所蔵する国宝「麻布著色吉祥天像」(まふちゃくしょくきちじょうてんぞう)を製作させたことは広く知られていますね。

 

 

 

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