2010(平成22)年前後のことだったと記憶しています。
当時の株式会社MORITA様の本社(現・埼玉ロジスティックセンター)のショー・ルームにうかがった時、通常版とは明らかに様相を異にする姿の像がショー・ケース内に何体も居ました。当時は「○○○を迎えに行く」ということを決め、その分の代金を持参してあっさりと目的の像を連れ帰っていました。何度か、この様な事を繰り返していくと〝目も肥えて〟きて、ショー・ルームやショー・ケースで立っている特別な像たちにも意識が届く様になっていきました。現・ブランドマネージャー様がその特別な像たちについて「これは催事場限定の・・・」「こちらは特別に塗った・・・」などと説明してくださるのです。こうした解説をしていただくことで、それぞれの像の個性と希少性を学ぶことができ、興味が湧いてきました。ただそれぞれの像の足元に据えられている価格表示を見ると・・・通常版の倍以上の数字が記されていたのです。希少価値ということを踏まえれば当然なのですが、なかなか精神的ハードルが高うございました。しかし、こうした分野の逸品は〝出逢ったことが運命〟で、一期一会と認識しなければ一生後悔するものです。
ということで、お願いして特別な像たちを不定期的に迎えに行くことになったのです。
10数年前に努力した自分に〝よく頑張った〟と賛辞を贈りたい気持ちでいっぱいです(笑)。
さて昔話はこれくらいにして、今回はM-ARTS・リアル仏像時代の「毘沙門天」ですが、画像をご覧になって気付きますでしょうか?〝銀色〟が目立つ毘沙門天であることを。
此方は、現在ガレージキットメーカーKOCを主宰されている茨木彰氏が彩色を担当された特別な毘沙門天です。
初めて株式会社MORITA様を訪れて、連れ帰った(購入した)のが通常版の毘沙門天と如意輪観音(観心寺モデル)でした。この時は〝特別彩色〟という存在を知らなかったですし、通常版の購入でとても満足をしていました。
M-ARTS・リアル仏像時代の「阿修羅」3種類を揃えてから、特別彩色された像たちに意識が向くようになりました。購入した順序は、最早記憶にございません。
さぁ、毘沙門天・茨木Ver.の姿を堪能していただきましょうかね。
正面から観た、凜々しき姿はこんな感じです。
先にも触れましたが、彼方此方に注された〝銀色〟が特徴的な毘沙門天です。
ぐるっと360度、まわってもらいましょう。
ぱっと見、銀色が目立つので〝メカ毘沙門天〟っていう感じです。
光背付ですが、頭部の単髻(たんけい)の様子です。
髷を結び、左右の両端を跳ね上げている布は灰色に塗られていますね。
単髻を正面からだけでなく、左右両側からも観てみました。
頭髪をまとめ頭部にはめられている輪(紐?)は銀色が注されていますね。
頭頂部の単髻が折り曲げられている様子が頭髪をあらわす毛彫り技法で見事に表現されています。こうして改めて観ると、髷もかなり丁寧に造られていることが判ります。
では次、逞しい顔について観ていきましょう。
造形は、現行の毘沙門天と大差は無い様です。
彩色等でかなり違ったイメージになっています。
単髻の正面に据えられた宝珠形の飾板は、光が当たるよう観ると「燻し銀」になっています。甲冑の文様に注されているのも燻し銀ですね。
顔の肌部分が白っぽく塗られています。
顔面に近づいてみましょう。
先ほど〝白っぽい〟と表現しましたが、こうして近づいて見ると〝経年による退色・擦れ・剥がれ〟の再現が施されていることが判ります。
見事に「彩色で時間の経過を表現」されている顔ですね。現在、こうした再現をしようとすれば、費用がどのくらいに跳ね上がるのか想像もつきません。
ちょいと角度を変えて、右側から顔面を観ていきますね。
前の画像でも気付くのですが、敢えて瞳がくすんだ様に手が入っていますね。
自然に埃が積もっている様にも見えますし、長きにわたり埃がはらわれて擦れ・剥がれが生じた様にも見えます。場所によっては〝本当に擦った〟のではないか?というところもあります。
繰り返しますが、見事に「彩色で時間の経過を表現」されている顔ですね。
更に右側にまわり込んでみましょう。
「右眼」が凄いっ!目尻側の白目に細い血管が描かれ、玉眼ではないのに塗りだけで超リアル。
頬から顎にかけての黄ばんだ風合いも、また時間の経過によって生じた〝味わい〟に見えてきます。
顔の表面に用いられている彩色の種類、肉眼で見ても4~5種類はありますよね。
しかも筆の運び方を見ると、それぞれの箇所に色を置いた後に粗さを残しながら均しているようです。しかもこれは平面ではなく、起伏の変化をみせる顔(彫像の)に施しているのですよ。
もみあげや耳朶(みみたぶ)にも、接する頬・顎の彩色とのバランスが不自然にならない様な経年を表す彩色が注されています。
執拗ですが、見事に「彩色で時間の経過を表現」されている顔ですね。
今一度、茨木毘沙門天の〝眼ぢから〟に注目してみましょう。
玉眼をイメージさせるような艶やかさを敢えて抑え、〝往時は輝いていたんだ〟ということを連想させる、瞳を曇らせるような工夫が施されていますね。
「目は口ほどに物を言う」の喩えの如く、この眼はこの像の歴史を雄弁に語ってくれている様です。彩色時間はそれ程掛かっていないのでしょうけれど。
参考までに先日扱いましたStandard毘沙門天(左)と、茨木毘沙門天の〝眼ぢから〟を並べてみました。
優劣や強弱ではないのですよ。どちらも彩色で瞳を表現しているのです。「凄い」以外の表現がありましょうか?
右側ばかりから攻めてしまいましたので、左側からのお顔の様子です。
相模国願成就院の毘沙門天は〝運慶がイメージする坂東武士〟と比喩されますが、茨木毘沙門天は姿形は同じなれど、意志を有して自由に駆け巡るリアル毘沙門天に思えてきます。
次、上半身を正面から観ていきます。いやーっ、カッコいい。
右手には三叉の戟(槍)を、左の掌(てのひら)の上には宝塔を載せています。
宝塔にクローズアップ。
銀色で塗られていますが、このパーツは金属製に見えてきますね。
表面のざらつき具合が燻し銀とピッタリ調和しています。
宝塔のシルエットが判るように、角度を変えて観てみました。
やはり、金属っぽい。
ちょいと上から宝塔を観てみました。相輪の歪んだ感じがまた味わい深い。
光が当たると〝明るい銀色〟ですね。
今度は、戟の先っちょを観ていきましょう。
形状はStandard版と同じです。燻し銀で塗られているので、本当の戟(槍)の様です。
円形の光背を外して画像を撮り直しました。
左右の枝は形式的なもの、つまり装飾となっていますが、中心の先端は〝刺さったら抜けにくい〟形状で、極めて実戦的です。
三つ叉に分かれる部分に宝珠の様な装飾(模様)がありますね。おそらく意味があって、この形が据えられているのでしょう。
もう一回、視点を変えて戟と宝塔を持つ茨木毘沙門天の勇姿です。
では、胸部を守る鎧の造形を観ていきましょう。
かなり接近して撮ったので、飾鋲などの細やかな装飾部分がよく判りますね。
胸甲に付属している円形のパーツだけが銀色に塗られています。
白っぽい彩色を散らすことによって擦れたり、こちらも退色したりと経年状態が見事に表現されています。
鳩尾の輪っかで上・左右を繋ぎ止めている箇所の造形などは、独立別個のパーツが装着されたかの様に見えてしまいます。
これまでの画像でチラチラと見えていたのですが、敢えてここまで触れずにいました。
この茨木毘沙門天のチャームポイント、胸元の「ルビー」です。
勿論、本物・・・ではなく模造宝石が嵌め込まれています。
現ブランドマネージャー様が当時、「これはもう造れないですね」と解説してくださいました。だから茨木・毘沙門天は現在、河越御所の一員になっているのです。
この茨木毘沙門天は世界に唯一の像なのか、それとも他に兄弟像が居るのか?その真偽は定かではありません。
因みに、5~7年ほど前にオークションで、木像の願成就院モデルの毘沙門天が出品されていて、胸には赤いルビーが嵌め込まれていた物をみたことがあります。サイズ・価格は覚えていません。茨木毘沙門天のごとき計算され尽くした彩色が施されたものではありませんでしたが、兄弟像だったのでしょうか?それとも単なる模倣像だったのでしょうか?謎にございます。
左の肩甲に施された植物をモチーフにした模様と縁取りに、銀色が注されています。
ちょっと視線を上からにして、肩甲の模様の全体像を観てみました。
左真横から顔を観てみると、埃を掻いたような彩色がなされていますね。
頭にまわっている輪(紐?)までの毛髪と、それよりも上の色合いが少々異なっています。
襟甲に護られている項(うなじ)まわりの彩色もまた人体かの様にリアルな表現です。
今度は視線を下ろして、左腕と袖の造形を観ていきます。
斜めに鰭袖(ひれそで)の裙(すそ)が広がって、下に垂れている窄袖(さくしゅう)は暗い感じで塗られています。
腰元が引き締まっていることも判りますね。
腰元の甲の装飾の縁に明るめの銀色が注されています。背面の背中から臀部にかけての色合いは地味(暗め)なので、善きアクセントになっています。
左の肩甲の装飾、左腕の鰭袖が広がっている様子です。
上腕部の袖は単なる黒色を塗っているのではなく、茶色だったり青味がかった色が塗られた上で、擦れ・退色具合が表現されています。
広がりをみせる鰭袖は、上腕部の袖と同一生地であるはずなのに襞や形状、そして強くない風を受けて揺らいでいる動的な表現を有しています。
内側にまわって、全腕部を護る腕甲を観ています。
茶色っぽい腕甲の中に施された装飾と縁取り部分に銀色が注されていますね。
地味な箇所に銀色を注すと際立つだけでなく、その周辺が洒落た印象を持つようになります。
窄袖は茶・青・黒の3色が塗り重ねられていますね。
左腕の上腕部と広がっている鰭袖の様子です。
腕甲は左の物と同形態で、同箇所に銀色が注されています。
垂れ下がる窄袖には、青味がかった彩色が施されています。
確かに銀色と青色は相性がよろしいですからね。計画的な組み合わせか、それとも単なる気まぐれか?実体は知る由もありませんが。
上半身の様子ですが角度を変えて観ています。何故なら、カッコいいからです。
右側にまわりこんでいきます。
腰のくびれが強めですね。
こちら側から観ると、顔の膨よかさが目立って胴体はちょいと細身に見えますね。
右側から横顔の表情を観ています。
右の眼ぢからが強力なので、険しさが出ていますね。
以前観た2種類の毘沙門天(2020Limited/Standard)でも確認しましたが、左側から宝塔越しにみると願成就院モデルの毘沙門天は正面から見るのとは異なる〝厳しい表情〟をしていました。
造形が原則同じなので、茨木毘沙門天にも共通していますね。
この画もカッコいい。
次いで、胸から腹にかけてを正面から観ていきます。
こうして部分的にみると、ポッコリお腹が目立つのですが、引いて全体像をみるてみると調和がとれていてカッコいいどころか、美しいのですねよ。
腰帯から下半身にかけての様子です。
前垂とその縁、重ねられた前面の下甲(縁取りに銀が注されています)には模様・装飾は見られず経年を感じさせる筆遣いが見られます。筆の運び具合から、手際よく素早い塗りをしたことが推測できます。
重ねられている下の甲の裙の段々になっている所には強めの銀色が塗られています。
こうした〝所々に銀を注す〟ことにより、しつこい派手さが排除され、年を経て味わいを伴う退色再現と〝燻し銀〟とが見事に調和・融合して、この茨木毘沙門天が醸し出す独特の〝神々しさ〟になっています。
重ねられた甲と、その下に垣間見える衣・袴の様子を観ています。
衣・袴には模様は見えませんが、色を重ねることで、かつては色合いがあったんだという主張が聞こえてくる様です。
やはり段々になっている部分の銀色が、下半身の中では強いアクセントになっていますね。
脛当から足元にかけてを観ています。
右足を前に踏み出し、邪鬼を踏み潰していると説明されていますが、まったく無駄な力を使わずに邪鬼たちを押さえ込んでいます。
脛当の横面には、腕甲と共通する模様が施されており、そこには鮮やかな銀色が注されています。この足元だけを観ても、お洒落でカッコいい。
角度を変えても、やはり美しく格好良い足元。
あまりにも素敵なので、脛当の模様を接写してみました。
目立っていませんが、細やかな装飾模様にも、しっかりと銀色が注されています。
茨木毘沙門天の円形光背です。
茶色または若干の赤味を注した銀色が塗られています。
今回で3種類目の毘沙門天ですが、光背もこうして観ていくと個性を備えています。
光背を外した、後ろ姿の様子です。
Standard版の時にも触れましたが、講談社『週刊 原寸大 日本の仏像』№40の「願成就院と浄楽寺 運慶仏めぐり」6頁に掲載されている願成就院・毘沙門天の背面の写真と比較すると、本物と見紛(みまご)う程の忠実な再現なのです。
背中全体を観ています。
腰に掛けての絞り(括れ)に眼が行ってしまいますが、左右の腕に付いている鰭袖(ひれそで)の広がり、下に垂れている窄袖(さくしゅう)の揺らぎもまた躍動感を表現しているとともに、上半身の美しさ・格好良さ(優雅さ)を感じさせています。
隙が無い上に、美しさを伴わせる造形は運慶の腕にもよりますが、このバランスを見事に再現されたイSム様造形技術が秀でている証でしょう。素晴らしい(Standard版と同じ文章になっています)。
飾鋲と各甲を繋ぎとめている革帯に付いている金具に銀色が注されています。
ちょっと金色っぽくも見えてしまいます。
前の全体像も同様ですが、拡大して観ると〝汚し塗装〟が極めて秀逸ですね。
この白っぽい汚しと、下地の黒っぽさ、更に銀色のアクセントが武骨さを伴いつつも優雅で艶やかなハーモニーを奏でているのです。もう芸術の領域に到達していますね。
背中から腰元にかけての様子です。
左腕の袖たちが写っているので見えにくくなっていますが、腰の括れがスゴイです。
腰周辺の様子です。
逆さになった宝珠形の縁取りに銀色が注されています。
左右の横垂にある鋸歯文状の装飾にも銀色が注されています。
左右と後方という3方向(2種)の装飾を違うものとしているところなどは運慶のセンスが卓越している証左ですな。
角度を変え、右斜め後方から観ています。だいぶキツメに帯が締められていることになりますが、腰の括れが凄い。そして綺麗です。この画像からは、お腹ポッコリ感が全く感じることがありません。むしろ逆三角形の屈強な身体であることを想像してしまいますね。腰から臀部に掛けての膨らみもまた美しく、腰の括れを強調する効果を持っていますね。
また偶々ですが、銀色の鋸歯文に光が当たって「地味って言うなっ」という主張にも感じられます。
腰の部分を真正面から見た画像です。腰の捻りから生じる曲線が、銀の差し色と共鳴してより一層造形美を際立たせています。
近づいてみると、甲の表面はツルツルではなくゴツゴツ感が強いですね。
段々に塗られた銀色も、一律に塗られた訳ではなく擦れ・剥がれの変化を付けた塗装になっていますね。
重ねられた甲と、その下から動きをみせる衣の様子です。
衣の裾は、Standard版と似た様な配色になっていますね。
衣の裾の動きを確認するため、右側から観ています。
右の脛当の装飾模様がチラ見えしています。
Standard版ほどではありませんが、淡く毛並みが見て取れるので「毛沓」(けぐつ/貫:つらぬき)と判断してよろしいでしょう。
斜め後ろから。
邪鬼の背中に、ふわりと乗っているかの様ですが、そこは毘沙門天ですから計り知れない重量を課しているのでしょう。邪鬼からするとたまったもんではありませんな。
この角度からの衣の裾の膨らみ具合、本当の布に見えてきませんか?これはポリストーン製なのですが・・・。
後ろ真正面からの様子です。
衣の柔らかさが伝わってきますね。
制止像なのに〝躍動感〟を内包している。言葉で表現するのは容易いですが、これを具象化した運慶は凄い。そしてこれを忠実に再現したイスム様(この像はリアル仏像時代ですが)の造形技術も素晴らしいです。
忘れてしまいそうになっていましたが、踏まれている邪鬼2匹はStandard版と色遣いは同じですが、配色は微妙に違っています。これも個性です。
台座ですが、縁の部分が擦れたり、または割れが入っている様に見えていますけれども、これは仕様です。
像の各パーツの所でも観察してきましたが、茨木毘沙門天のウリは〝時間の経過(歴史の重み)を彩色で表現〟しているところです。そのため、台座にも同様に「こんなに長い間、伝えられてきたんだよ」と言わんばかりダメージ加工が施されているのです。
この作品に一貫して表現されている信念・こだわりは国宝級だと感じているのです。
ちょっと時間が経ってしまいましたが先日、イスム・ブランドが立ち上がる前の株式会社MORITA様・旧本社ショールームを訪れたことがある方とお話する機会がありました。
「何度も行ったことがあるんですよ・・・」と話したら、「あそこは凄いところだったねぇ」「(凄い)仏像がゴロゴロしてたもんな」・・・と色々話題が広がって盛り上がっていきました。
そういった奇縁に恵まれたので、ついつい昔話(とは言っても10年ほど)をしてしまいました。とても楽しいひとときでしたよ。
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