伐折羅大将
薬師如来の第十一誓願「飲食安楽」を司っています。左手は垂下して拳を開き、右手に剣を持つ姿になっています。
頭髪は、全てを逆立てた炎髪です。まさに故事成語「怒髪天を衝く」を具現化した造形で、赤い顔料が良好な状態で残っています。
総逆毛になってしまうことを万人が納得できるような憤怒の形相です。顔面の全ての筋肉が強張り、どの角度から見ても怒りが満ち溢れています。大きく開いた口の中も、妥協することなく舌・歯が写実的に表現されています。
持物の剣は、柄周辺の装飾から三鈷剣であることがわかります。
三鈷剣は、三鈷杵のうち中央の鈷が伸びて剣となっている物で、本来は不動明王の持物として災厄・悪気・煩悩を切り払って剣を持つ者を守護し、魔を降伏する強力な法具・武器です。
地に向けられた左手は、五本の指を開いているのではなく、中指・薬指の間を広く開いています。これは仏敵を威嚇している様を現しているのだそうです。
喉元の各甲を繋ぎ留める甲締具には飾鋲が施され、その上に天衣がかけられています。剣を持つ右手と悪を威嚇する左手の動きとのバランスからか、胸甲は若干縦長・小さめになっている様です。胸筋の隆起が控えめの胸甲には菊座が施されており、平坦な胸部に較べて腹部の膨らみが目立っています。
一見、白く見える部分も拡大してみると、仕上げまで幾つもの段階を経ていることがわかります。
胡粉による塑土の味わいが随所に見られ、部分的ではありますが彩色等の装飾痕跡も丁寧に表現されています。
他の像は布の腰帯が巻かれている造形ですが、伐折羅像は石帯を装着しています。
下半身は踏ん張っている姿なので、袴・天衣・下甲・表甲が静かに重なっている造形です。
後ろに回ってみると、紐帯の表現が宮毘羅像・毘羯羅像・招杜羅像は縄目が繊細に表現されているのに対し、伐折羅像の紐帯は縄目の表現が省略化されているのがわかります。
石帯には巡方に花冠形の装飾が丁寧に表現されています。
書籍に掲載されている写真はもちろん、現地(新薬師寺)を訪れても、なかなか像の裏面を観察することはできないので彩色等が剥落してしまったから白一色と思い込んでしまいます。しかしイスム像では様々な専門的観点からまとめられた資料を駆使した彩色をおこなっているそうです。
こうして拡大して隅々まで見てみると、造像時から現在に至るまで十二神将が経てきた時間・歴史が彩色で表現されています。
仏像フィギュアは数あれど、「インテリア仏像」という概念・領域は、こうした他の追随を許さないこだわりによって形成されていることが実感できます。
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