居合刀改造 黒田官兵衛 「へし切長谷部国重」 鞘糸巻仕上

今年の夏、スケジュール調整をして江戸(東京)に出向いた時、東京国立博物館で聖林寺十一面観音と、他の幾多の文化財を愛でました。その後、秋葉原の武装商店様へと足を伸ばして刀(居合刀)に触れて楽しみました。

 

その時、出逢ったのが「黒田官兵衛 へし切長谷部国重 鞘糸巻仕上」(以下「糸巻きへし切り」と略します)です。厳密に言うと、Twitterで入荷紹介された当該品について問い合わせ、在庫を確認していただき迎えに行ったのでした。〝できれば月一ペースで〟うかがおうという気持ちでいたので、7・8月は目標をクリアしました。・・・でも9月は行けませんでした。さて神無月(10月)も間もなく終わりそうです。どうなることやら・・・。

 

さて、「糸巻きへし切り」はつい先日、当御所に届けられました。
以前は仕事終わりに車で秋葉原に向かい、刀等を迎えに行っていました。ところがここ最近は仕事終わりが遅く、その時点で心身共に疲弊してしまうようになったので迎えに行くことが難しくなっています。また電車で行くと、運不運もありますが、武装商店様の階段を降りて横断歩道を渡ろうとするとガラの悪い私服刑事に絡まれる(職務質問をされた)極めて不快な経験をしたことがあるので、原則は宅配をお願いする様にしています。現在も職質しているかは不明ですが、宅配していただければ、とても機動力が上昇しますからね。

 

・・・大幅に脱線してしまいました。
届いた「糸巻きへし切り」はこんな感じです。

刀身は居合刀用で、二尺四寸五分。本物(二尺一寸四分)より長くなっています。
居合いには不向きな拵えですが、それぞれのパーツには手間が掛かっており、なかなかな高価格になっております。

 

 

抜き身と鞘の様子です。
刃文は「へし切り長谷部」(?)。こんな刃文名ありましたっけ?
でも、アノ刃文が再現されています。
鞘は黒・金の切返し塗りになっています。

 

 

 

「糸巻きへし切り」の〝顔〟の部分です。
まぁ、カッコいいこと。
本物はもっと短めですが、此方の柄は眺めになっております。
本物準拠(外見とサイズ)は、以前の特注で頼んでいますので、今回は既製品を迎え入れました。ですから、違っていることが多ければ、それは嬉しい事なのです。

 

 

柄頭の金具は、金色の「白波図」淵頭です。
柄巻は、牛革ヌバックの茶色(茶染牛裏皮捻り巻)ですね。革の茶色は、ホント様々な色合いがあるのですが、〝へし切り〟の茶色と言えば、この色合いで伝わります。

 

 

柄頭の様子を3方向から観ています。
金と茶色って、なかなか相性がよろしいのですね。

 

 

 

商品紹介の公式名称は「桃山朱染本鮫皮」(ももやまあかぞめほんさめがわ)と言うそうです。
柄下地の鮫皮は、赤く塗られた後に墨(黒という意)が入れられています。
「谷汚し」(たによごし)という技法で、昔の本物の刀でも用いられています。
特注で谷汚しは武装商店様が引き受けてくださいます。以前は、谷汚しの〝汚し具合〟も調整していただきました。ご興味のお持ちの方は特注依頼時に問い合わせてみてください。
因みに、鮫皮の粒が大きいと〝汚し〟はあまり目立たず、逆に粒が小さいと〝汚し〟が際立つそうです。上の画像は、粒が小さいので汚しが強くなり、赤黒さが見て判りますね。

柄革と鮫皮はそれぞれ別の色ですが、赤系統の色ということで調和がとれています。

 

 

目貫は「桐紋三双図」(きりもんさんそうず)です。
以前特注でお願いしたへし切り長谷部は3つの桐を金・銀・銅の3色で塗り分けられた物でした。こちらの「糸巻きへし切り」は塗り分けられている様ですが、中央と両端が違うというのは判ります(ちゃんと3色に塗り分けられているとの事です)。

 

 

鐔は「斧題目図」、信家の写しです。忠実に本物準拠で再現されています。
斧の透かしが綺麗に出ています。

 

 

「南無妙法蓮華経」の文字が彫り込まれています。
・・・とは言っても、一文字ずつ彫り込んだものではありませんがね。
柄の影で「南無妙法」が見え難くなってしまいました、残念。

 

 

 

今度は「法蓮」が影で見え難くなってしまいました・・・。

 

 

鞘を払って、鐔の裏側を観てみます。

クネクネとした曲線が見えますが、「瓢箪」の図柄が彫り込まれています。

 

 

 

反対側、透かしの斧がある方から見ています。
蔓と葉っぱが彫り込まれています。

 

 

 

意図的に触れなかったのですが〝8月に出逢って10月に届く〟という、この時間差の理由がお判りでしょうか。

そうなんです。鎺(はばき)に家紋のレザー彫刻をしていただいたのでした。
一箇月半ほどの時間が掛かりましたが、改造をお願いしていたのです。

差し表には「陰五三鬼桐」(かげごさんおにきり)紋を入れていただきました。
織田信長から黒田孝高(官兵衛)に下賜されたという話なので、授けた織田信長が使用した桐紋をイメージしました。織田信長は足利義昭から桐紋を拝領しましたからね。織田木瓜紋だと、信長が滅んでいるので縁起がよろしくないですし、〝天皇から下賜された桐紋〟にした方が素敵だという理由で、この桐紋にしました。桐紋も色々とありましたが、レザー彫刻で表現できるものということで二転三転して「陰五三鬼桐」となりました。

 

 

差し裏には「藤巴」(ふじどもえ)紋を入れていただきました。
黒田孝高(官兵衛)が荒木村重の説得に向かい一年以上も土牢監禁された折り、見えていた藤の花を見て生きる力を得たということから藤を自らの紋として用いるようになったという故事に因み藤巴紋としました。

小さな鎺(ハバキ)への彫刻ですが、こうした〝こだわり〟を入れて(表現すると)、唯一の一振りができあがるのです。勿論、費用は嵩みますが(時間も)、これが〝オトナの楽しみ・遊び〟なのでございます。

 

 

 

抜き身を差し表側から観ています。
本物のへし切りの刃文をイメージしたものですが、本物に良く似ています。

 

 

今度は、抜き身を差し裏側から観ています。
こちらも、本物のへし切りの刃文をイメージしたものになっています。
何時の事かは覚えていませんが、本物を観たことがあります。
でも片方(差し表側)しか見ることができませんよね。
反対側(差し裏側)の刃文って、表側と全く同じなのでしょうかね?見てみたいものです。

 

 

 

刃文の疑問はさて置き、刃文の表裏を並べてみました。
・・いかん、斬りたくなってしまう。それくらい綺麗な刃文ですな。

 

 

それでは鞘の方に目を移していきましょうか。

水牛の角で造った鯉口、綺麗ですね。
高価格商品であるため、こうした細かいところの処理も丁寧です。

 

 

 

返角(かえしづの)が付いています。
腰に差す形式の帯刀の際、帯に引っ掛けるためのパーツです。
破損しやすいという弱点もあるため、通常の居合刀では省略されることが多いのです。
この返角を付けると、当然ですが価格は上昇してしまいます。

 

 

切返し部分の拡大画像です。
糸を巻くために、鞘下地が削られている様ですね。歪んでいるのが判ります。
普通は、こんな至近距離で注目しませんからね。
でもしっかりと〝手造り〟されていることも判るので、善しとしましょう。

 

 

木の部分と糸巻きの部分、ホントの切返しになっています。
いったん糸巻きして。斜めに切り落としている様ですね。
境界の凹凸、そして色塗りのはみ出しは致し方ありませんなぁ。

 

 

糸巻きの凸凹がしっかりと活きています。
本物は、金の板に霰地を圧し出してボコボコを表現したものを巻き付けています。
かなり前の武装商店・店主様とのお話の中で、「居合刀の特注で、本物と同じく鞘を再現するのは不可能です」と言われたことがあります。
なるほど、糸巻きで本物のボコボコ感を表現するとは、発案された方の発想に敬意を表します。素晴らしい。

 

 

ちょっと距離をおいて見ると、とても綺麗に金のボコボコが表現されています。
糸巻き、スゴイっ。

 

 

スゴイので、真横から接近してみました。
本物とは違うものの、イメージは近似していますからね。イイ感じです。

 

 

傾けて、光の当たり具合も考慮して撮った画像です。
ホント、よく思い付いたものと関心の極みでございます。
価格を抑えつつ(とは言っても高額商品ですが)、本物が醸し出すイメージを見事に表現しきっていますね。大絶賛しております。

 

 

 

鞘の先っちょには本物が装着する金具をイメージした「球状鍬型金具」(きゅうじょうくわがたかなぐ)が据えられています。

 

 

 

 

 

 

鐺金具をグルッとまわしてみました。
表面がツルツルになるように丁寧に処理されていますね。
こうした細かい所の処理が丁寧だと、とても嬉しくなってしまいます。

 

 

 

 

もう一回、切返し鞘の金色に輝く部分に注目した画像を載せますね。

 

 

2009(平成21)年に武装商店・店主様と特注の話をしていて、
「〝へし切り〟なんてどうですか?」
と、アノ特注鐔も合わせての提案をいただいて造られた「プロトタイプへし切り」。
その特注「プロトタイプへし切り」を紹介した時にも触れましたが、「経済的な余裕ができたら」の条件付きで「糸巻きへし切り」を入手したいと考えていました。
余裕があった訳ではありませんが、こうして「居合刀へし切り」としては終着点に位置付けられる「糸巻きへし切り」を迎えることができました。ほぼ10年の時間が経過していました。

〝オトナの遊び〟って、ホントに楽しいですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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