伐折羅(イSム「掌」 単品・新版)

2011(平成23)年9月に発売されたTanaCOCORO〔掌〕シリーズの伐折羅は、〝ラインナップの見直し〟を理由に、いったん2014(平成26)年に販売終了となってしまいました。しかしながら、その後も問い合わせが相次いだということで2019(令和元)年7月、300体限定で再販が実現しました。

7/27で紹介した様に、既に伐折羅・掌版は持っていました。
4/29で紹介した様に、既に伐折羅・十二神将版も持っています。

TanaCOCORO[掌] 十二神将が再版された際、「再版されると前よりも造型が良くなったり、彩色のヴァージョンを変更したりするのでしょうか?」「購入したものと、大幅に違うことが有れば新たに〝買わなければならない〟と考えてしまうのですが、どうですか?」と問い合わせたことがあります。すると、
 ・最初に製作する時に〝気合いを入れて〟作っている
  (初版が一番良いので〝買い直す必要はありませんよ〟という意味でした)
 ・再版の際も、最初の版をもとに彩色しているので〝ほぼ同じ〟
  (しかしながら、個体差は生じてしまうとのこと)
 ・造型は〝同じ型〟を使用しているので変わることはない
とご教示いただきました。

でも公式HPの画像を見ると、〝既に居る十二神将〟よりも再版十二神将は色鮮やかに見えます。飾っているとどうしても埃を被ったり、湿度等で彩色も退色してしまうのだと思うことにしています。現実的に十二神将は高額商品なので、買い直すことは不可能です。

でも、伐折羅の単体であれば可能です。しかも公式HPに掲載されている画像を見ると、

                                (画像は「イSム」様公式HPより)

初版よりも鮮やかな彩色が一目で判断できます。また、

                                 (画像は「イSム」様公式HPより)

 再版にあたり、旧「TanaCOCORO〔掌〕伐折羅」の完成された造形はそのままに、彩色を一から見直し。塑像ならではのどこか温かみのある質感に加え、実物の剥落した彩色表現により一層近づけるようこだわりました。イスム工房の進化した調色技法によってさらに凄みを感じさせる仕上がりが実現しました。

とあるではありませんかっ。
初版・十二神将版とはまた〝違った伐折羅〟という認識で、新版・伐折羅を迎えに行きました。

 

連れて帰ってきた新版・伐折羅が此方です。

 

回転させてみました。前面の様子が判ります。

 

同じく回転させました。背面の様子が判ります。

 

 

新版・伐折羅の特徴は、頭髪が赤味を帯びていることです。
〝赤味〟とは言っても真っ赤ではなく、薄い落ち着いた橙色とでも言いましょうか?
派手過ぎない、程良い色合いです。

造型は同じですが、彩色の具合でだいぶ違う物に見えてしまいます。
初版・伐折羅でも触れましたが、十二神将版・伐折羅は「胡粉」(ごふん)を用いて塑像の質感を表現していますが、単品の伐折羅は胡粉彩色ではありません。それでも表面の塑造のザラついた状態を上手く表現しているのが判ります。

伐折羅の表情を、角度を変えて掲載しています。
実際に本物を拝観する際には、この様な位置・高さ・角度・距離から観ることはできません。しかしながら、インテリア仏像を購入すれば、気軽に像の姿を楽しむことができます。正確な資料データに基づいての忠実な造像ですので、理論上は本物を色々な角度から観ていることと同じなのです。

 

「炎髪」後頭部の様子です。伐折羅の表情にピントを合わせると、頭髪の色具合はどうしても薄く見えてしまいます(実際に色は薄いのです)。
 十二神将版・伐折羅:炎髪に赤味が少々注されている
 初   版・伐折羅:頭頂部の炎髪先端部分にほのかな赤味が注されている
 新   版・伐折羅:炎髪は全体的に同じ色調の橙色が塗られている
それぞれ彩色の違いが、同じ伐折羅像であるにも関わらず発売時期によって特徴として際立ちます。こうした観察は楽しいものです。

 

胸甲から腹甲にかけて、更に肩から鰭袖・窄袖にかけて、胡粉塗りではありませんが塑造の質感が表現されています。
鎧の装飾部品や、各甲を結び付ける縄目も繊細丁寧に表現されています。

 

背面、上半身の拡大画像です。
表側と同様に、塑造のザラついた表面処理がなされています。

腰の部分の締め紐が、縄目・結び目・房の様子が丁寧に再現されています。
十二神将版・伐折羅では簡略化されているところですが、初版・伐折羅と同様、新版・伐折羅にも見られる特徴です。

大和国新薬師寺の十二神将のうち、伐折羅像が唯一「石帯」を装備しています。
四角い巡方の上に花冠形の装飾が丁寧に表現されています。

 

三鈷剣を観ていきます。三鈷剣は三鈷杵の中央の鈷が伸びて剣となった物で、これは不動明王の持物として魔を降伏させる強力な法具型武器でもあります。

地に向けられた左手は中指・薬指の間を広く開き、仏敵を威嚇する様子を表現しています。ちょとした仏教彫像の造形には、奥深い意味が含まれているのです。

 

新薬師寺十二神将の中で伐折羅像が唯一「石帯」を装備しているのは先にも述べました。
他の11像は布の腰帯が巻かれている造形ですが、伐折羅像だけは石帯を装着しています。
袴・天衣・下甲・表甲が重なっている造形です。

石帯がなかなかしっかりと締め付けている様子が判ります。
紐帯と石帯で腹部・腰部が2段階で締め付けられており、地味ながらも曲線が像の立体感を主張しています。本物がそのような表現をしているので、イSム伐折羅像もこうした見過ごしてしまいがちな造型表現をしています。こうした目の付け所と再現技術が脅威ポイントです。

離れて観ると、角度を変えて観ると、重なって静止している袴・天衣・下甲・表甲が今にも動き出しそうな感じがします。

腰部よりも下の背面の様子です。
彩色がほぼ剥落している訳ですが、僅かに残存する痕跡の再現具合がまた絶妙です。

 

仏教彫像には「静の美」と「動の美」があると考えますが、新薬師寺の伐折羅は、間違いなく「動の美」の典型例でしょう。
炎髪に筋肉が力強く盛り上がり大きく開口した表情、それとは対照的な鎧を装備しながらも細身のしなやかなフォルムが、見事なまでに調和を魅せているのです。
〝売れる〟のも当然ですね。

 

最後に、初版と新版の伐折羅を並べてみました。

左側が初版・伐折羅、右側が新版・伐折羅です。ご覧の様に造型は同じものですね。

 

用いられている色と、彩色の仕方に相違点を見出すことができますね。
こういう画像を見ると、〝既に持っているから〟という油断をしてはならないと気持ちが引き締まります(笑)。

 

 

 

 

 

 

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