十一面観音立像(聖林寺モデル イSム Standard旧版・廃盤)

此方はイSム様が2013(平成25)年4月に販売を終了された、大和国聖林寺モデルの「十一面観音」です。再販の要望が多く寄せられたため、2021(令和3)年3月に再版されました。今回は〝温故知新〟的に旧版・十一面観音について観察をしていきます。

制作された奈良時代当時の最新かつ最高の技術を投入して造立された十一面観音菩薩像と考えられています。
像の完成度の高さから官営工房(東大寺造仏所?)における制作と推測され、研究者からは大神寺(おおみわでら)において『六門陀羅尼経』を購経した文室浄三(ふんやのきよみ)が造像に関わったという可能性が指摘されています。
文室浄三は天武天皇の孫のひとり智努王(知努王・珍努王・茅野王:ちぬおう)で、東大寺の大仏開眼供養が挙行された孝謙朝の752(天平宝字4)年に臣籍降下をしています。

 

視点・角度が多少異なりますが、イSム十一面観音(左)と本物の聖林寺十一面観音(右)の画像を並べてみました。ちなみに本物は国宝に指定されており、木心乾漆像としては日本最古の彫像でありながら後世の補修が少なく、ほぼ造像時の姿を現在に伝える貴重なものとなっています。
こうして並べてみると、細かい相違点を幾つも挙げることはできるでしょうが、凄く良く造り込まれていることは間違いありません。

頭と胴体が檜の一材から彫り出されており、内部は刳り抜かれています。
これに両腕・手首・長い足ほぞを付け加えています。
漆に木屑などを混ぜて練った木屎(こくそ)を付けて表面を整形しています。

 

恒例の360度、回転させてみましょう。

 

どの角度から観ても、天平仏の質感が見事に再現されているように感じます。

 

本物の顔にみえる金箔の罅割れ・剥落具合を再現することは至難の業です。
それでも20枚超の金箔をいったん貼り付け、敢えて拭き剥がす手法により、おおまかな特徴はとらえられているように感じます。罅割れや塗りも組み合わせて経年状態を表現しています。
本物が鋭い目付きをしているのに対し、イSム十一面観音の目が穏やかな印象を受けるものになっています。若干〝小顔〟になっていることから可愛らしい表情にも見えます。

顔立ちは、卵形の輪郭、ややつり上がった瞼に、くっきりと眼窩線(眼球の周りのライン)を刻んだ目、がっしりとした鼻梁、ややきつく結んだ口など、全体に厳しい表情になっています。

本物は、耳朶(じだ)や身に纏っている天衣のように、本体から離れているパーツは金属の芯に木屎を盛り付けながら整形しているそうです。

 

頂上仏面は観世音菩薩自身の化身で「菩薩面」。
他に頭上部には合計10体の木心乾漆造の仏面が差し込まれていたと推測されています。

 

奈良時代に日本へ伝来した十一面観音菩薩に関する、当時の最新の儀軌に基づいた表現
  菩薩面(ぼさつめん):穏やかな表情を以て善良な人々に楽を施す。
  瞋怒面(しんぬめん):怒りの表情を以て邪悪な人々を戒める。
  狗牙上出面(くげじょうしゅつめん):牙をむきながらも人々に善行を励ます。
が採用されています。

制作当時の8面が現存、残念ながら3面が失われてしまいました。
失われたのは菩薩面が1面、狗牙上出面が1面、そして人間の悪行・煩悩といった愚かさを笑い飛ばす「暴悪大笑面」1面です。

 

両手は造像当初のものといいます。胸飾りや臂釧・腕釧などの装身具は、銅板によって制作されていたと推測されていますが、現在では失われています。
イSム十一面観音は、装飾具の無い状態で制作されています。
胸のヒビ割れが入っているところは金箔を貼っての加工で、天衣や腹部にかけては金箔と塗りの併用、もしくは塗りのみを施している箇所が入り交じっています。

 

左腕は肘を曲げて、ほぼ胸の高さにおいて水瓶を持っています。
因みに本物の水瓶は、造像当初のものだといいます。
金箔剥落箇所は黒い彩色で表現されています。

 

親指と中指・薬指で水瓶を挟み持っています。

 

左の前腕部は金箔を貼って剥がしていますね。

 

右手は斜め下に向けて下げられており、中指・薬指を軽く曲げた状態になっています。
下半身の衣にも金箔が貼られ、剥がしています。
衣の襞(ひだ)は規則正しく整っており、柔らかな動きを表しています。
右大腿部の内側にあたる箇所に赤?茶色?が注されていますが、本物には見られないものです。
汚れ?があることで、これはこれで良いアクセントになっています。

体軀部から離れている天衣は、鉄銭などを芯にして、その上に木屎漆を盛り上げて成形しているのだそうです。
イSム・十一面観音に鉄心が入っているかは不明ですが、流麗な曲線を描く天衣が見事に再現されており、像の持つ立体感を表現しています。

 

右腕の角度、指先の緩やかな動き、天衣が左右に穏やかな広がりを見せ、更に右腕と天衣の流れが素晴らしく調和をとっています。

 

左側がイSム・十一面観音、右側が本物(聖林寺・十一面観音)の背面の様子です。
緩やかな曲線ながらも肩幅が広くとられ、腰は細く括れて締まっており、腰高のスマートなプロポーションになっています。
イSム・十一面観音が若干、臀部が膨よかになっているように感じます。
忠実なレプリカの再現ではないものの、モデル(本物)の持つ魅力を踏襲しつつ、独自のデフォルメを加えながら〝美しさ〟や〝格好良さ〟の強調がなされていますね。

 

上半身の背面を拡大してみました。
どの様な技法を用いているのか判りませんが、貼り付けた金箔に入っているヒビ割れが自然な感じで再現されています。

本物は黒漆の光沢がありますが、イSム・十一面観音では艶消しとなっており、強すぎない程良い金色の残痕再現が施されています。

 

腰回りを観てみましょう。
強めの括れで腰を絞り、本物よりも少々膨よかな臀部で〝美しい腰回り〟が表現されています。
腰布の金色が、この〝美しい腰回り〟を更に際立たせる役割を果たしていますね。

 

裾の部分です。
表側と同様に、襞が整然としたリズムを奏でています。
貼り付けられた金箔が襞の形に応じて剥がされ、そしてヒビが入れられています。
本当に千年もの時間が経過した結果のように見えてしまいます。

 

台座は蓮華座・敷茄子(しきなす)・反花(かえりばな)・3段の框座で構成されています。
本物には光背が備わっていましたが、光脚部分と身光部の一部分が遺っており、奈良国立博物館に寄託されています。
イSム・十一面観音では、光背は再現されていません。

 

 

 

コロナ禍の影響により会期の変更が生じましたが、
 特別展「国宝 聖林寺十一面観音‐三輪山信仰のみほとけ」
 2021(令和3)年6月22日(火)~9月12日(日)
の会期で、聖林寺・十一面観音立像が東京国立博物館・本館特別5室にて拝観できます。

嬉しいことに、長めの会期なので複数回拝観しようと考えています。
海洋堂さん、今回は聖林寺・十一面のレプリカを販売しないのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

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