愛染明王(イSムStandard 篁千礼氏彩色 極彩色仕様 2015 Limited)

此方は「イスム 愛染明王 2015 Limited」です。
「Limited」版は年1回のペース(そうではない年もあります)で発売される特別彩色Ver.で、いずれも彩色師・篁千礼氏が筆をとられた作品となります。

モデルとなったのは奈良県にある真言律宗総本山の西大寺・愛染堂の本尊として鎮座する重要文化財・愛染明王坐像です。真言律宗を興した叡尊の念持仏としても知られる秘仏で、特別公開期間のみ拝観できます。
西大寺愛染堂の愛染明王は、1247(宝治元)年に叡尊の発願により仏師善円が制作したもので、秘仏であるが故に彩色の残存も良好で、像内から叡尊関連史料が発見されています。

仏師・善円は、もともと興福寺所属の仏師であったようです。
1955(昭和30)年に西大寺愛染堂の愛染明王が善円の手によるものであることが確認されてから、善円の存在が一般に知られるようになりました。この愛染明王は、秘仏であることから1247年造像当時の彩色や切金文様、各種持物、金銅製装身具、光背、台座が良好な状態で遺っています。
1983(昭和58)年に発見された需要文化財・薬師寺地蔵菩薩立像の胎内願文によれば、
 ・1240(延応2)年に東大寺慈恩院の俊幸を願主として、善円が造像した。
 ・1240年の時点で善円の年齢は44歳であった(逆算すると1197年生まれ)。
ことが判りました。すると、
 ・善円の生年が、既に知られている善慶の生年(1197・建久8)と一致する。
  →1249(建長元)年に重要文化財・西大寺清涼寺式釈迦如来立像の台座銘より、善慶は造像時に      53歳であったことが判明。逆算すると1197(建久8)年の生まれであることが判った。
 ・善慶が善円と入れ替わるように活動をしている。
 ・善円・善慶両者の作風に連続性が認められる。
以上のことから善円が改名して善慶と名乗った可能性が高く(改名理由は不明)、同一人物であろうと推定、「慶」字の名乗りは僧位を得るためであろうと推測されていてます。

さて、極彩色の愛染明王の身体は赤く彩られていますが、用いられているのは「最上赤口本朱」という顔料だそうです。近年では環境問題の観点から、水銀等の重金属を使用した顔料の製造に規制がかかり始めているそうで、先のことになるでしょうがこうした顔料の製造ができなくなってしまうかもしれません。イSム様HPでも「経験を積んだ彩色師でも鮮やかに発色させるのが難しい」色として紹介されています。

 

何と、鮮やかかつ華やかな像なのでしょう。
自邸に居ながら縮小サイズとはいえ国宝・重要文化財を愛でることができるとは、何とも素晴らしい時代になったものです。

 

当然なのですがStandard版(左)と極彩色版(右)を並べて比較すると、極彩色の華麗な佇まいが際立っています。一方で、渋いStandard版の味わいも素敵です。

 

回転させて、像の全体を見ていただきます。

 

どの角度から視ても、華やかさ全開の愛染明王です。
たくさんの僧侶が真言「オン・マカラギャ・バゾロシュニシャ・バザラサトバ・ジャク・ウン・バン・コク」を唱える声が聞こえてきそうです。

 

蓮台座の上に結跏趺坐する、愛染明王です。
Standard版よりも色鮮やかであることから、身体の動きがよく判ります。
光背は日輪を表している「円相」形で、金色・朱色で炎が燃え盛っている様子を表しています。

 

造形は同じ物なので〝瓜二つ〟です。極彩色版だと纏っている布の模様や皺の様子が判り易く、上に向けている足の裏の状態が見易いですね。

 

左右の金色炎髪を逆立て、中央に獅子冠を戴いています。

頭頂部の獅子冠上には五鈷鉤がのせられています。その後ろで炎髪をまるで蓮の葉の様に丸めています。勿論、炎髪なので7本の尖りが上に向けられています。横から観ると宝珠の様な形になっています。

左右の逆立った炎髪の毛先は外側に向けられ、頭髪部分の調和をとっています。

 

愛染明王の眼は、瞳孔が黒く、虹彩が金色です。〝第三の眼〟が妙にリアルな造形です。
吊り上がった金色の眉毛には黒線を差することで表情に迫力が増しています。
獅子冠の眼も同様に黒い瞳孔・金色の虹彩で、端に赤い筋を入れることで〝めぢから〟がアップしています。

 

左の第一手には五鈷鈴、右の第一手には五鈷杵が握られています。五鈷杵の握り方は密教独特の印「金剛薩埵の威儀」という、手首を捻り返した持ち方です。
この組み合わせは金剛薩棰の持ち物と共通しているといい、「息災」を表現しているのだといいます。

 

「金剛薩埵の威儀」を、角度を変えて観た画像です。
装身具も細やかな造形で、身に纏っている布の模様とともに丁寧に塗られています。

 

左の第二手は弓を握っています。

 

左の第三手が〝何も持たない手〟になります。これは金剛拳といい、中には摩尼宝珠を納めているそうです。愛染明王に祈禱する際は、この金剛拳に願掛けに沿った物を握らせるのだそうです。願いの内容によって持たせる物具が変わる訳ですが、呪詛の様な場合は対象者の関連品を持たせるか、おどろおどろしい物を持たせるとのことです(握らせる・持たせるだけではなく掛けるもある)。健全な願望であれば他の手の持物と同化して見えるのでしょうが、呪いのための骸骨(作り物)などだとしたら、恐ろしい様相になってしまうでしょう。兎にも角にも〝恐怖の手〟なのです。

 

右側の手の持ち物です。
第一の手が五鈷杵、第二の手が鏑矢、第三の手が「未敷蓮華」(みふれんげ)を持っています。
画像では見えませんが、よく観察すると左右の腕の所々にヒビ割れが出てしまいました。

 

第二の右手は「大悲」の矢を持ち、人びとの心中に存在する差別・憎悪の念のもとを射止め、菩提心に至らしめるのだそうです。
右手の甲に数本のヒビ割れが出てしまいました。画像でも伝わるヒビの入り具合です。限定品なので致し方ありません。

 

第三の右手は、仏教における清浄の象徴とされた蓮の花の蕾(「未敷蓮華」といいます)を持っています。この未敷蓮華は白色の蕾として彩色されています。

 

密教的極楽浄土を表現した宝瓶から出た蓮華座は、鮮やかな朱色の花弁が縁と葉脈に金色が差され華やかな台座となっています。

 

蓮華台を構成する蓮弁はStandard・極彩色版共に一枚一枚丁寧に積み重ねられ、色味は異なりますが、とても緻密な造形となっています。

 

蓮華台を出している宝瓶、その周囲に配置されている宝珠は共に愛染明王の無限の福徳を表現しているのだそうです。愛染明王像や蓮華台の華やかな箇所に注目が集まりがちですが、極彩色版は像・台座を支える宝瓶の部分の彩色も妥協無く細かく丁寧に施されています。

 

宝瓶を角度を変えて観た画像です。
結び目・襞の塗り方も工夫され、布の躍動感が伝わる造形になっています。静止した造形であるにも関わらず〝動いている様子〟を視覚的に伝えるということは物凄い高度な技術だと驚愕しています。

 

光背の裏側は、漆黒の塗りとなっています。

最後に、愛染明王に因んだ歴史を見ていきます。

1080(承暦4) 「如法愛染王法」(にょほうあいぜんおうほう)が始修された。
     →理趣経曼荼羅を敷いた大壇中央に塔を置き、中に仏舎利や如意宝珠、                  愛染経王像を安置して、朱塗りの敬愛護摩壇や降三世明王の仏画を懸                  けた調伏護摩壇も設える (しつらえる)大規模な修法。王権と密接に                 関係した信仰の形の様子が判る。

1127(大治2) 白河天皇、法勝寺に百体愛染の絵像を奉納。

1139(大治4) 鳥羽天皇、中宮の侍賢門院藤原璋子の安産祈願に百体愛染を造像。

1187(文治3) 藤原兼実が平等院経蔵に詣で、「弘法大師御本尊愛染王」を礼拝した。
     →『平等院御経蔵目録』には「愛染王、弘法大師在唐の日、伝得して帰                  朝の間、負来の故に波旬を破り、蒼海を渡る」とあり、空海が信仰し                  た愛染明王を平等院が伝来していたことが読み取れる。
     →『覚禅鈔』には「宇治の経蔵に大師の御本尊あり。日中に陽烏を画す                  なり」とあり、烏を描いた日輪を持物とした姿が判る。

1281(弘安4) 蒙古襲来にあたり、奈良・西大寺の叡尊が石清水八幡宮で異国退散を               祈願したところ、愛染明王が鏑矢を放ち神風が吹いたという。

こうして見ると古代日本における愛染明王の修法は皇族・貴族・朝廷という社会の上層階級によって行われたものであることが判ります。愛染明王の信仰で、現在の〝恋愛成就や縁結びの利益をもたらす〟という要素は近世(江戸時代)になってから始まったのだそうです。

 

 

 

 

以前、孔雀明王Standard紹介の時に撮影していた〝正暦寺スタイル〟(孔雀明王Standard Ver.)です。

 

 

 

こちらも以前、孔雀明王Standard特別彩色紹介の時に撮影していた〝正暦寺スタイル〟(孔雀明王Standard 特別彩色Ver.)です。

 

財政的に苦労をしましたが、色替え版(限定版)が発売された時に入手しておくと、こうした〝大人の遊び方〟で楽しむことができます。時間と心身に余裕が出れば、ただ並べるだけではなく〝工夫したディスプレイ〟を創りたいと考えています。

 

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